• ミロコマチコ「ミロコあたり」

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  奄美大島で暮らすようになってから、猫たちの様子が変わった。
 まずは、旦那さんにめちゃくちゃ甘えるようになった。東京に住んでいた頃は、ほとんど寝にしか帰ってこない旦那さんのことを、
「なんだか、夜になると、うちに入ってくるおっちゃん」
としか思っていなかったんだと思う。8年暮らしたソトとボウですらそうなのだから、3歳のテンちゃんとスイちゃんなど、近寄りもしなかった。
 それが奄美に引っ越してから、1日中いるようになると、
「おや? あのよく見たおっちゃんは、家族になったのかな?」
という具合になって、徐々に近づいてきた。私にべったりだったソトとボウは、旦那さんにべったりになった。タバコを吸いにしばしば外に出るのだが、玄関で健気に戻ってくるのを待っている。人間にあまり近づかないテンちゃんも、気づけば旦那さんの側で寝ている。あとはスイちゃんのみだが、以前のような警戒心が少なくなっているのは、見るからにわかる。
 私より人気が出て、悔しいので、面積が大きくて、座ったら動かないから、暖かくて気に入られてるんだ、と思うようにしている。
 もうひとつは、勝気になったこと。
 ある時、夜中にものすごい声で猫たちが鳴き叫びはじめた。何事かと思って見に行くと、窓の外に少し毛の長いトラ猫がいた。ちょこんと座って、敵意を出している様子はないのだが、うちの猫たちがものすごい形相で抗議している。私が訳すと、
「おんどりゃあ〜〜〜、どこのどいつじゃああああ〜〜〜、何見とんじゃああ〜〜〜!!!」
てな具合である。東京にいた時も、野良猫の多い地域だったので、たびたびうちの周りには知らない猫が行き来していた。その時は鼻をフンフン鳴らして、
「ねぇ、あれ何? 何なの? もうちょっと見ていたいんだけど? 近づいてくれないかしら?」
という感じで、静かに興奮しつつ見守っていることが多かった。
 しかし、奄美の猫は強い。こんなにうちの猫たちにいちゃもんつけられても、微動だにせず、きちんと手を体の中に折りたたんで箱座りをし、居座り始めたのである。それを見たうちの猫たちが再び、
「うちの庭で〜〜〜、何、くつろいどんじゃああ〜〜〜!!! このガラスさえなけりゃあああ〜〜〜!!! 引っ掻いて、毛むしって、ちんちくりんにしてもうたろか〜〜〜!!!」
と永遠に叫ぶから大変。なだめようとしても、うちの猫たちにはトラ猫しか見えていない。そして、トラ猫はたびたびうちに現れるようになるのである。
 私たちはこの猫を、マイケルと呼ぶことにした(トラ猫といえば、漫画の『ホワッツマイケル』の主人公。単純だ)
 ある日の夜も、マイケルはやってきた。ちゃんとうちの猫たちに気づいてもらえるように、律儀に外から鳴くのだ。だいたい早く気づくのはスイちゃん。
「また、お前かぁあああ〜〜!! うりゃあああああ〜〜!!」
という声で、他の3匹も集まってくる。私はまたか、と思いながら、無駄とはわかってても、必死でなだめる。その時、マイケルが、うちの中を覗き込むようにして、窓のふちにひょいと足をかけて近づいてきた。すると、スイちゃんが、
「ぎゃあああああ!!!」
と叫んだ。この世の終わりのような声だった。そして、家中を走りまくった。びっくりした3匹もパニックを起こし、走り出した。本棚をなぎ倒し、鍋を落とし、壁にかかっているカレンダーを破き、嵐のように、家の中を破壊しながら、暴れまくったのだ。私は止めようもなく、オロオロと動いただけで、嵐が過ぎるのをただただ見ているしかなかった。
 そんなことがあってから、マイケルが来ると、私は外に出て追い払うようになった。人間のこともそれほどは恐れないが、一応去っていく。うちの猫たちは物足りなさげに興奮を鎮めて、なんとかいつもの生活に戻る。
 しかし、寝ている夜中に来ると、めんどくさい。しかも明け方に近い時間だと、凄まじい鳴き声なのだが、眠気には勝てない。そして、この日、マイケルはある行動に出ていた。
 朝起きると、猫たちは玄関をしきりに匂っている。外側から玄関のドアを見てみると、うっすら液体を飛ばしたような跡が......。なんと、オシッコをかけていったのである。マイケルめ! 内側も臭いと思ったら、うちの猫も負けじとオシッコをしていた。
 念入りに掃除をしたが、それからも度々オシッコをひっかけていくマイケル。あんなに堂々と、「僕は、親近感持ってるんです」みたいな顔をして、実は「俺の縄張りに入ってきた、都会っ子の気に入らない4匹」として見ていたのだ。
 極端に甘えん坊に、そして勝気になった猫たち。今日も旦那さんの膝の上を取り合うソトとボウ。玄関の匂いをしきりに嗅いでいるテンちゃんとスイちゃん。
 マイケルとの戦いは、これからどうなっていくのやら。



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