• ミロコマチコ「ミロコあたり」

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引越し当日。朝6時起床。出発は9時の予定なので、まだ3時間ある。猫たちのことが気がかりでソワソワするけど、まずは自分の身支度を整えながら、段取りを考える。
 東京から奄美大島への荷物の輸送には8日間かかるため、6日前には運び出しを終えている。そのため、この10日間くらいは、家の様子がどんどん変わったり、屈強な引越し屋のお兄さんたちがバタバタと家の中の家具などを運んだりする日々だった。だから猫たちも薄々何か異変が起こっていることには気づいていた。
 猫のトイレは出発ギリギリまで必要だし、着いてすぐも必要なので、段階的に減らしていった。4つあるうちの2つは引越し屋さんに持って行ってもらい、1つは引越し当日に着くよう今から3日前に宅急便で送り、最後の1つは、手持ちすることにしていた。それでもトイレにうるさいボウちゃんが、「なんでどんどん減ってくんだ、許さないぞ」とばかりに、最後の夜に毛布におしっこをした。
 そんなわけで、猫たちのストレスも増えている中、無事にみんな元気で引越しを遂行しなければならない。前回のアドバイス通り、1カ月ほど前から毎晩のように、猫たちには引越しのことを話していた。聞いてないふりをしていたり、そんなのどうでもいいよとばかりにはしゃいだりしていた猫たちだけど、いよいよ今日である。
 飛行機に乗る、という大仕事を控えているので、その前をなるべく怖がらせたくない。
 まずは、7時頃一度おもちゃで遊ぶ。みんなが大好きなブラッシングをしてあげる。そして、
「飛行機に乗るで。ちょっとびっくりするけど、着いたら素晴らしいから!部屋が離れているけど、一緒に乗ってるからな」
と声をかけ続けた。
 そして一旦、遊ぶのやめて、まだ自分の荷造りなどをする。そうしていつもの日常を匂わせた。それを7時半、8時と回数を重ねた。
 とにかく難しいのが、スイちゃんだ。スイちゃんは普通の猫が好きであるものが全く好きではない。とにかく一人遊びが得意なのと、異変を感じ取るのがうまい。だからおもちゃで呼んだり、ご飯で釣ったりすることができない。他の誰かがケージに入れられたら即座に隠れるだろうと思っていたので、一番最初にケージに入れるのはスイちゃん、と決めていた。
 でもスイちゃんは甘えん坊なのである。自然にしていればスリスリと甘えてくる。8時15分、そこを狙った。かわいこかわいこしてあげて、ヒョイっとケージに入れたのだ。一番難しいと思っていたスイちゃんを難なくクリアしてしまった。
 そうなると、私の仕事は早かった。長年のプロのケージ入れかのように、おやつでテンテンをケージに誘導し、カチャンと扉を閉じる。ブラッシングしながらボウちゃんをケージに入れて扉をカチャン。そろそろ異変を感じ始めていたソトも食い意地が張っているのでおやつで誘導でケージをカチャン。
 自分の仕事の鮮やかさに震えた。もう何か成功したように感じた。
 少したってからみんな異変に気付きだし、ケージの中で暴れるボウちゃんに触発されて、みんな大合唱や大暴れを始めたけど、もう耐えるしかない。
 タクシーで空港へ。その日の羽田空港はなぜか異常に混んでいた。インド系の人々が巨大な荷物を持って行列を作っていた。その中に猫4匹連れて並ぶ。ちょうど手続きが難航している大量の荷物が置かれている中、こちらも猫がいるので、手荷物預り所はちょっとしたカオス状態だった。書類にサインをし、猫が入っているのを確認され、無事預けることができた。ここからはもう無事を祈るだけ。ああーー、どうか天候が安定して、飛行機があまり揺れませんように。
 奄美までは約2時間半。たまたま小さな子どもが多い便で、いろんなところで泣いている。
「ああ、こんな風に猫たちも鳴いているんだろうか!」とソワソワしながら、「大丈夫よー、大丈夫よー」とテレパシーで伝え続けた。
 無事フライトは安定していて、着陸も見事な運転で穏やかに到着。荷物受取所の隣にある扉から猫たちは出てくると聞いて、その前で待つ。
 女性がひとつずつケージを渡してくれて、4匹全員無事でした!
 黒目がまん丸になって、鼻がビチャビチャになっていたけど、元気そう。急いで車を走らせて、新しい家に到着。
 ほっと一安心。あとはゆっくり慣れていこう。



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