• ミロコマチコ「ミロコあたり」

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 先日、富山ガラス造形研究所というガラス制作のための専門学校に、特別講師として招いていただいた。私で良いのだろうか?と思ったが、生徒たちに広い知識を身につけてもらうため、これまでにも絵画、現代美術、建築、工芸、デザインなど様々な分野の方たちに講義を行ってもらってきたらしい。何よりも、ガラス制作の現場を私自身が見てみたいという想いが強くて、引き受けることにした。
 当日、富山駅近くのホテルまで迎えに来てもらう。そこから車で20分ほどの場所に学校はあるらしい。大きな道路や建物に囲まれた都会から、梨畑の広がるのどかな風景に変わっていくと、赤い壁に緑の屋根の可愛らしい校舎が現れた。芝生の中にポツポツと校舎が建っていて、屋根には熱い空気を逃がすための窓がたくさん見える。空は快晴で、肌寒い風の中の温かい太陽が気持ち良い。
 学長や先生達とご挨拶した後、校舎を案内してもらう。ガラス作品を制作する部屋や、ガラスを削るための部屋、一度に大人数が作業できるように、大きな釜や機械がぎっしり並んでいる。
 ひときわ明るい部屋が、奥に見えた。聞き覚えのある音楽が聴こえてくる。よく一緒にライブペインティングをする音楽家のharuka nakamuraさんの『光』。その部屋は、ホットショップと呼ばれる、吹きガラスの工房だった。初めて訪れた学校なのに、馴染みのある音楽が流れてきて、まだ見ぬガラスの世界へ「ようこそ」と歓迎されているような気がした。
 ここでお昼となり、お弁当をいただくことになった。先生達が続々と中庭に出てくる。階段の途中や、外に出したソファなどに思い思いに掛けてお弁当を食べる。先生達が一緒にご飯を食べる学校なんて、初めて見た。「奄美から来たら、富山は寒いでしょう」なんて他愛もない話をしながらお昼休憩を過ごし、午後はいよいよ講義だ。
 生徒は2学年合わせても約40名と小規模なのに、新型コロナ対策で3つの教室に分かれて、オンライン講義をすることになっていた。ところが、通信がなかなかうまくいかず、別の教室から、「画面が見えません!」とか、「音声が聞こえません!」とかをいちいち伝えに、先生が走ってくる。他の教室の様子を感じるほど近いので、みんな同じ部屋でいいのでは?なんて思ってしまって、おかしくて笑った。
 なんとかうまく繋がった頃には、たくさん笑ったおかげで気持ちもほぐれて、いつもより落ち着いて、私のやってきたことを映像を見せながら紹介することができた。途中、質問もぽんぽん飛び出し、会話形式で講義が進んでゆく。今までいくつかの学校で講義をしてきたが、たいていの生徒たちは興味があるようには見えず、質問時間を取っても、しぶしぶ......なんてことがほとんどで、こんなことは初めてで驚いてしまった。
 そのあとは、待望の実技時間。数日前に、作ってみたいガラス作品を絵に描いて、先生に送っていた。5匹の猫たちが、一度に一緒に水を飲めるような大皿。天使のような形をしたいきもののオーナメント。
 ガラスに絵付けをしたり、熱いガラスを成形することも体験させてもらった。その間も、生徒たちからの質問はとだえることなく、手助けもしてもらいながら、ふれあいの時間は続く。
 そして、先生や生徒たちの制作も間近で見せてもらった。熱くて、形がとどまらないガラスを扱うのは、スリリングで無駄な動きがなく、拍手するほど美しかった。いつまでも見飽きない。
 つい最近、その時に作ったお皿やオーナメント、ワイングラスなどが、自宅に届いた。厳重に梱包材で包まれた作品を開けるたびに、あの時の感動が蘇ってくる。夏の強い日差しから柔らかく変わってきた秋の光が、ガラスを通って私の目に飛び込んでくる。私が形を作ったいきもののオーナメントは、居心地悪そうに、無骨だったけれど、それはそれで愛らしく仕上がっていた。
 たくさんの技術や力やみんなの心が関わってできたガラスの作品たちを見ると、心がグツグツと動き出し、さぁ、今日は何を生み出そうか、という力が湧いてくる。



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