• ミロコマチコ「ミロコあたり」

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 島ではとにかく、ハブに関する話題が多い。ハブの毒は筋肉を溶かす作用があり、咬まれたら異常に腫れ上がり、筋肉が壊死するので、一刻も早く病院へ行かなければならない。咬まれた人の話によると、火で炙られているような痛みが何日も続き、夜も眠れないらしい。聞いただけで、絶対に咬まれたくないと思う。
 生きたハブを捕まえて役所へ持っていくと、3,000円で買いとってもらえるので、怖がるどころか、喜びいさんで捕まえにいく人たちも割といる。夜な夜なハブを探しに行く人もいる。見つけると、あれは金だった、銀だったと話しているのをよく聞く。色や柄に個体差があり、他に黒や赤もいるらしい。
 毎年発行されているハブに関する情報チラシ、HABUDAS(ハブダス)によると、奄美大島での去年のハブ咬傷者数は17名で、ハブの買上数は12,802匹だった。このチラシには、他にハブに咬まれないための対策や、咬まれたときの対処法、毒吸引器の使い方などが載っている。
 つい先日も、ハブを捕まえたおっちゃんが捕獲用の箱に入れて、次の日に役所に持っていったら、ぐったりとして動いていなかった。生きている状態でないと買いとってもらえないため、ちょっと揺すって、
「動いた!」
「動いてない!」
の押し問答をしたらしい。また、その箱を開けた瞬間にハブが飛び出て、咬まれたなどの話も聞く。
 咬まれるのは人だけではない。イヌやネコ、ヤギも噛まれる。知人は、飼っているヤギが小屋の奥に顔を向けて、動かないから、しつこく呼ぶと、
「振り向いたら顔が血だらけで、お岩さん状態で、どっひゃー!よ」
と大騒ぎ。
 去年は、町で有名な強者が、木から落ちてきたハブに咬まれて病院に担ぎ込まれたので、その界隈では賑わったらしい。不謹慎だが、今は病院も充実してきて、死に至ることも少ないので、よく話題にのぼる笑い話となっているくらいだ。
 特にガジュマルは滑りやすいから、ハブも落ちやすい。枝が大きく広がって適度な木陰を作ってくれるから、私はその下でぼんやりするのが好きだったが、そう聞くと恐ろしい。
 とはいえ、そこまで遭遇率は高くなく、私はまだ生きている野生のハブに遭遇したことがない。けれども、死んでいるハブには度々遭遇する。大体が車に轢かれている。その大きさや太さ、毒ヘビ特有の三角形の頭を見て、震え上がる。生々しいけれど、姿かたちを覚えるにはちょうどよく、見つけるとマジマジと観察する。
 島の道路は海沿いに走っていることが多い。獲物であるネズミも海には出ないだろうし、なぜ、わざわざ危険な道路を渡ろうとするのだろうと不思議に思っていた。島のおっちゃんに聞くと、1年に1回、夜の海で体を洗うのだという。脱皮しやすいように、とも聞くが、本当か嘘かわからない。
 月に照らされるハブは、ピカピカと輝いて、それはそれは美しいらしい。ゆらゆらと光る波の間で、クネクネと体を洗うハブを想像すると、神話のようだ。
 ハブがいるおかげで、島民はむやみに草むらに入ることがなく、森が守られているような気もする。会いたいけれど、会いたくない。でもこの島にはハブがいた方がいいんだろうな、とは思っている。



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