• ミロコマチコ「ミロコあたり」

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 サトウキビが、収穫の時季を迎えている。奄美では、1月から3月頃がシーズン。刈り取られたサトウキビが、大きな網状の袋に入れられ、運ばれていくまでの間、道路にデーンと置かれている。サトウキビの路上駐車だ。秋頃から道路にビュンビュンはみ出ていたサトウキビ。それを避けて車を走らせていた日々も一旦終わるのか、と思うと感慨深い。サトウキビ工場にはうずたかくサトウキビが積まれていて、もくもくと煙をあげてフル稼働している。
 その様子を見ていて、思い出した。インドへ行った時のこと。デリーからハリドワールへ行く途中の道で、大渋滞に巻き込まれ、車がピクリとも動かなくなった。運転手さんは、初めはブーブークラクションを鳴らしたり、後ろからコンッと追突されて、車を見に行ったけど、ちょっと傷がついただけだからオッケーみたいな感じで、戻ってきたりしていたけど、あまりの動かなさに、諦めてエンジンを切り、車の外へ出た。前方に様子を見に行ったのだ。先の橋の信号がない交差点で、みんなが我先に、と進んだ結果、車が組み合わさって動けなくなってしまったようだ。
 車に戻ってきたはいいが、どうせ動かないし、外で時間を潰していた。他の車の運転手も次々に車から降りて、その辺にもたれかかり、前方を少し気にはしてるが、のんきにしている。
 ふと、あたりを見回してみると、そこはサトウキビが産地の村のようだった。大きなトラックが荷台に山のようにサトウキビを積んでいる。そのトラックも渋滞に巻き込まれて動けないでいる。
 ひとりのインド人が、おもむろにトラックからサトウキビを引き抜き始めた。ものすごい高さに積み上げてあるので、重みで簡単には抜けず、足で踏ん張って、ヨイショ、ヨイショと引っ張ってると、別のインド人が駆けつけ手伝い始めた。そしてやっと、引き抜いたサトウキビを食べ始めた。それを見た他のインド人たちも続々とやってきて、サトウキビを引っこ抜いては、わしわしと✳︎しがむ(関西の言葉で、繰り返し強く噛むこと)。あっという間にあたりのインド人たちはみんな手にサトウキビを持ち、しがみながら車にもたれかかったり、道路に座ったりしながら、渋滞の動向を見守っている。
 これは窃盗ではないのか。トラックの運転手は気づいてないのだろう。ついにはサルまでやってきて、同じようにサトウキビを引っこ抜いて食べ始めた。すぐ横の石垣に座っているので、じっと観察していると、人間と全く同じようにサトウキビをしがんで食べている。車の窓越しに見えるこの風景にクラクラしながら、犯罪なんだけど、いい世界だなぁ、なんて思いながら見てた。
 しばらくそんな様子が続いた後、急にみんなが騒ぎ出し、車が動き出した。前が動いた分しか進めないのに、とにかくみんなが口々に「行け!行け!」と叫ぶ。沿道にいる人も運転手も、人の車に顔を突っ込んで、「行け!行け!」を連呼しながら、やっと渋滞を抜け出せたのだった。



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