• ミロコマチコ「ミロコあたり」

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 昨年から、アトリエ兼自宅を建てている。基礎工事や棟上げまでは、プロの大工さんたちにも入ってもらい、色々教わりながら作った。その後は、基本的に、私と旦那さんの夫婦ふたりだけで作っている。あとは、時間ができたら来てくれる友人たちに手伝ってもらうつもり。とはいえ、私は本業もあるため、あまり時間がなく、主に旦那さんが一人で頑張っている。だから、それはそれは亀の歩みで、一体いつ完成するのか、誰にもわからない。
 さて、そんな日々が始まってから、昼食はお弁当になった。奄美にはコンビニがたくさんあるわけでもなく、近所に飲食店もない。工事はあまり手伝えないが、お弁当で応援するしかない。私のお弁当作りの日々が始まった。
 現場は、現在の住まいから、車で5分くらいの場所にあるので、出掛ける前に作って持っていくのではなく、午前中までに作って、お昼に届けるスタイル。早起きが苦手なので、それがせめてもの救い。
 友人2人が手伝いに来てくれたので、急に4人分作ることから始まった。8時前にみんなを送り出したら、早速お弁当の準備。米を炊いて、おにぎりを握り、卵焼きを作り、昨晩行った居酒屋でもらった魚の切り身をフライにする。それだけで、正午になってしまった。
 12時を告げる放送を聴きながら、慌ててお弁当を届ける。海に出て、お弁当を広げる。波の音を聴きながら食べるのは、とても気持ち良い。何も会話しなくても、4人の中にいい風が流れる。みんなお腹ペコペコで待っていたので、あっという間に完食した。3時間くらいかけたお弁当が、一瞬で吸い込まれていく。
 2日目、ガパオライスを作ったので、昨日よりはスピードアップしたが、小さなお弁当箱では物足りなかったようで、食べた後、みんな微妙な顔をしていた。一度戻って、おにぎりを握り、3時のおやつに届けると、ペロリとたいらげた。体を動かし始めると、格段に食べる量が増えた。急遽、大きめのタッパーを買いに行く。
 3日目、焼きそばにおにぎり。大きいタッパーに変えたので、満足なようだった。おやつにもおにぎりを食べるので、いまだかつてないほどに、米が減っていく。成長期の中学生を抱えている気分。午前中はお弁当作りと片付け、午後はお弁当箱の片付け。まだまだ暑い奄美では、野球部が持っていくような大きな水筒にお茶を入れていくので、永遠にお茶を作っている気がする。
 お弁当作りというのは、詰めるのに時間がかかるのと、やたらおかずを作らないと箱が埋まっていかないことが悩み。何年も、お弁当作りをする世のご両親たちを、心の底から尊敬する。
 そこである時、鍋ごといくことにした。車ですぐなので、冷めないはずだと思った。
 ハヤシライス。圧力鍋(米)と、ハヤシライスの鍋と、皿とスプーン。現場で盛りつける。これはうまくいった。
 ラーメン。麺を入れたタッパー、スープを入れた水筒、具材を入れたタッパー、器、箸。スープを入れた水筒の締まりが悪く、寝かしていたので車の中で漏れ出し、大惨事。途中から股に水筒を挟んで倒れないように、運転した。しばらくラーメン臭がする車に。でも美味しかった。
 お雑煮。餅と具材を入れたタッパー。お椀、箸。汁を入れた水筒。今回は厳重に締めたので無事、美味しく出来上がった。海で盛りつけるのも楽しい。時には風で砂が入りそうになるのを防ぎながら。人の気配がないので、無人島生活をしているようだ。
 あったかいものを食べられるのは、嬉しいようだ。しかし、持っていく皿やタッパーの多さ、汁物を水筒に注ぐときの難しさなどが相まって、お弁当より楽というわけではない。お昼前に合わせ、ちょうどの時間に調理して素早く持っていかなくてはならないのも、難しい。
 関西人の定番昼食、うどんやお好み焼きにも挑戦したい。海の匂いを嗅ぎながら、アオサを入れたうどんを食べたり、お好み焼きに鰹節を振りかけた途端、風に舞う情景が浮かぶ。そうなってくるとカセットコンロを持って行き、現場で温めるというのがいいのかもしれない。そうすると、もう現場で調理した方がいいかもしれない。水道はあるので、食器や調理器具は現場に置いておき、洗えばいい。毎日がキャンプ調理。
 そうやって試行錯誤しているうちに、もしかしたらキッチンが出来上がるかもしれない。そうなれば、現場で調理してご飯を食べればいい。そして住み始めるのかもしれない。そうやっているうちに、家は完成していくものなのかな、と思っている。



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