• ミロコマチコ「ミロコあたり」

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 ある日、旦那のまさしくんを空港に送るため車に乗ろうとしたら、ボンネットの上にカマキリがいた。薄茶色の体をしていて、ちかづいて見つめると、ファイティングポーズをとって、ユラユラ揺れる。かっこいい~と言いながら、特に気にすることになく、そのまま空港に走った。
 まさしくんを見送った後、車に戻ると、なんと薄茶色のカマキリはワイパーの上に立っていた。
 おおーー! すごいー! よく吹き飛ばされず、ここまで来たね! すごい遠出!と感動した。
 うちの周辺で生まれたであろうカマキリが、空港のそばで暮らすことになるのかと考えたが、カマキリは平然とした顔で、一向にどこかに立ち去る気配がない。
 この後、スーパーに買い物に行こうと思っていたので、もうここでさようならかな、と思いながら、また車に乗り込む。ワイパーの上にいるので、運転席からも見える。出発すると姿勢を低くして、風を避けながら危なげなくスーパーにもついてきた。買い物を終え、袋をさげて戻ったわたしに、
「よっ。おかえり」とでも言ってるように、まだワイパーの上でくつろいでいる。そしてそのまま、家に戻ってきた。
 次の朝、家の空気の入れ替えをしようと窓を開けると、なんとカマキリがいた! 薄茶色の体には特徴があるので、間違いなく、昨日と同じカマキリだ。すこし近づいてきている。
 うちのデッキは猫たちが外の空気を楽しめるように、ネットを張って囲ってあり、檻のような状態になっている。そのネットの外側に張りついていた。このデッキに出ることを猫たちは楽しみにしていて、すぐにカマキリに気づいたが、ネットの外側なので、手が出せない。アウアウと鳴き、ふわふわの手で、ネットの隙間からちょいちょいと触られている。
 もしかして、おじいちゃん......?とふと頭によぎる。わたしが生まれる前に亡くなってしまっているので、おじいちゃんの姿は遺影でしか見たことがないのだが、ヒョロヒョロと細長く、どことなくカマキリのようなのだ。わたしは薄茶色のカマキリをおじいちゃんと呼びはじめた。
 数日間、いつ見ても、このネットの上におじいちゃんはいる。そして少しずつ家に近づいてきている。心配なのは、ネットの中に入ってくること。そうなったら猫たちにいたぶられてしまう。ところが、その心配が的中してしまった。
 ある日の夕方、窓を開けると一斉に猫たちはデッキに出て行った。すると、おじいちゃんがネットの内側にいるではないか! おじいちゃんの位置を確認してから、開ければよかったのに、うっかりしていた。あっという間に猫たちに見つかり、ボウちゃんに触られ、ソトに触られ、テンちゃんに触られ、なんとスイちゃんがくわえて部屋の中に連れてきたのである!
 ついに家の中におじいちゃんが入ってきた......。と、大ピンチなのに、しばらく忘れて感動した。どやどやと猫たちが部屋に入ってきて、全員がおじいちゃんに注目している。パンチを繰り出され、すこし足がふらついている。スイちゃんがまたくわえて、部屋の奥へ連れていこうとするではないか。
 おじいちゃんを守らねば!と思った私は、スイちゃんから取り上げ、大急ぎで窓から外に出した。猫たちからは批難轟々だったが、
「おじいちゃんになんてことするんやぁ!」と一喝。
 おじいちゃんを無事に助けることができて、ほっと安心した。
 次の日、まさしくんが帰ってきたので、空港に迎えに行く。その時、あたりを見渡してもおじいちゃんの姿は見えなかった。たまたま見つけられなかったのかな、とも思ったけど、それ以来おじいちゃんを見ることがなかった。
 わたしが一人でいる間、心細いかもしれないと、近くで見守っていてくれていたのかもしれないなぁ。



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