
雪と氷の中から「やっほー」と呼び掛けてくる、なんか小さくてかわいいこの子はオニグルミの冬芽。寒くたってぜんぜんへっちゃらのニッコニコ!

「いないいない……」「ばあ!」と、遊んでいるのはサワグルミの冬芽。
「いっちに、さん、しょ、ぼく、サンショウ!」と、体操しているのはサンショウの冬芽。
鈴木純さんの植物観察絵本シリーズ最新刊『ふゆめのやくそく』には、こんなユニークな冬芽たちがたくさん登場します。
「冬芽(ふゆめ)」とは、樹木が冬を越して春を迎えるために用意しておく葉っぱや花の芽のこと。顔の目と口に見える部分は、葉っぱでつくった栄養や根っこから吸い上げた水分がここを通っていた管の名残りで、私はこの「顔」の部分を冬芽と思い込んでいましたが、顔の上に乗っかっている「頭」の部分が本来の冬芽だそうです。だから中には葉っぱや花の芽がギュッと収納されています。
冬が近づくと今年の役目を終えた葉っぱが落ち、冬芽の中に収納された赤ちゃん葉っぱに来春以降の役目を託す――。植物って、本当によくできていますね!

1作目『シロツメクサはともだち』と2作目『たねはいのちのおわりとはじまり』に続くこの第3作目、さてテーマは何にしましょうか?という話になった時、植物観察は冬がいちばん楽しいという純さんからは、迷うことなく「冬芽!」というお返事がありました。冬芽観察がおススメなのは、観察がとても簡単なこと、冬を過ごす樹木の生き方が見えてくること、だからこそ春の喜びがひとしおになるから、だそうです。
よっしゃ、進めてまいりましょう!
しかし制作は難航しました。いま過去ファイルを整理してみたら、純さんから届いた構成案は20回もの粘り強い試行錯誤を重ねています。ということは、純さんの手元ではもっとたくさんの構成案が作られていたことでしょう。
難しかったのは、子どもたちに冬芽を紹介しようとすると説明する文章が増え、自然科学の「知識絵本」になってしまうことでした。でも、植物と友だちになるように冬芽の存在を知り、驚き、読み終えたら身近な植物への見方が変わるような「物語のある絵本」にしたい――。

植物観察中の純さん(写真左)
その突破口を開いたのは、植物ガイドとしての純さんの経験だったと思います。
ガイドである自分が夢中になって植物を観察&感動している眼差しを背中で感じさせるような文章を書くこと。そして、書きすぎずに、読者自身の観察を促すこと。抽象的ではありますが、ようやくフィールドに立つ純さんが絵本の中でも軽やかに動くようになりました。
こうして、20案目で構成が決まると、今度はデザイナーの窪田実莉さんも一緒になって、より親しみやすく美しい絵本作りに取り組みました。

「冬のえだには、顔がある。」アップで見るとその「顔」は一目瞭然ですが、実際の冬芽はとても小さくて、目を凝らさないと見逃してしまいそうです。でも目があった時の感動と言ったら…!
いろいろな冬芽たちと出会い、心の中で対話を楽しんでいくと、何もなくて寂しいと思い込んでいた山が、ひそやかな賑わいに満ちていることに気付かされます。
自然相手の撮影は、構成案の通りに写真が撮れるとは限りません。逆に自然の方から思いがけない姿を見せてくれることもあります。雪や氷といった名脇役も、小さな冬芽たちを際立たせてくれました。

シリーズ3作目となった本作で、純さんは、「定点観測」の写真撮影をこれまで以上に意識されています。たとえばこの見開き、一番左の写真は主役の冬芽が下の方にちょこんとあって背景が広めです。1枚写真としてはバランスが取れていませんよね。でも春になって芽が伸びていき、大きく葉っぱが広がった時にこうなるであろうという予測的な前提で、撮り下ろしています。純さんは既刊での経験を踏まえ、定点観測で流す画面構成をイメージしていたからこそ、このアングルが可能となりました。
植物と季節との約束という「詩的な物語」と、揺るぎない事実に裏打ちされた「自然科学」とが融合する写真絵本『ふゆめのやくそく』の完成です。どうぞすみずみまでお楽しみください。
読み終えたら、ぜひ外へ!
おまけ:
自分でも見つけられるかな?……と、我が家の庭にもいました~!
素人写真ですがうちの子たちも見てやってくださいね。
ヘっへー、どうだい?このヘアスタイル。(サンショウ)

は、は、はくしょんが出そうで出ない。ムズムズ…。(クチナシ)

来年の夏も猛暑かしらねぇ。(アジサイ)

みんなの春を楽しみにしているよ!
編集担当:横川浩子