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かがくいさんのこと

加岳井久美子夫人インタビュー

 かがくいは、どんなことにも手を抜かずに熱中して取り組み、関わる人からも愛されて、さらに大きなことを成し遂げていくような人でした。
 それは昔からずっと変わらず、浪人・学生時代のアルバイト先である、うどん屋さん、家庭教師、新聞配達、絵画教室の先生……どんな現場でも、ひたむきに取り組む姿勢や人柄を買われて、よく「このまま就職しないか」とリクルートされていました。
 あたたかく、包み込むような人柄で、オープンマインド。その場で居心地悪そうにしている人をちゃんと見ていて、冗談を言ったりして、ふっとその場を和ませ、相手の心を自然に開かせるのが上手でした。

かがくいさんは、読者からのハガキをとても喜ばれて、
忙しい合間を縫って、お手製のおへんじハガキを1通1通送って下さっていました。
亡くなられてからは、ブロンズ新社が代行して、
だるまさんからのおへんじハガキを送らせていただいています。

 冗談好きで明るい性格でしたが、作家としての創作欲求は突き動かされるような激しいものがあり、情熱的で気高いところがありました。大学時代からずっとかがくいのことを見てきましたが、創作活動に向ける情熱とエネルギーは「ふつうの人じゃないな」という感じでした。
 人を愛し、愛されることで力を得て、前に進んでいく人でした。家族へ向ける愛も深く、「晩ご飯は家族そろって食べなくちゃいけない」が家訓で、どんなに忙しくても必ず、義母と娘と四人で食卓を囲んでいました。
 彼の心の根底には、子どもたちへの深い愛と、だからこそ世の中を憂える悲観的な部分がありました。「大変な世の中だからこそ、絵本でみんなを笑わせたい」と、よく言っていました。

かがくいさんが生前に使っていた机。本棚にはワイエス、パウル・クレーなどの画集が。
(写真=玄光社イラストレーション編集部提供)

 かがくいが残した16冊の絵本には、「大変なときだからこそ、笑って肩の力をぬいてやっていこうね」という彼の優しさが宿っています。かがくいの人柄そのものの絵本が、ひとりでも多くの読者の方に届くと嬉しく思います。

プロフィール

かがくいひろし

教師、絵本作家
1955-2009

東京学芸大学教育学部卒業。特別支援学校の教師としてハンディキャップのある子ども達のサポートに従事する。2005年、『おもちのきもち』で第27回講談社絵本新人賞を受賞。以来、『おむすびさんちのたうえのひ』、「だるまさん」シリーズなど、立て続けに絵本を発表。子どもの心に響く絵本は、またたく間にファンを獲得し、一躍人気絵本作家に。2009年にすい臓がんのため、54歳で急逝。絵本作家として活躍したわずか4年の間に、16冊の絵本を遺した。子どもの心を捉えて、あたたかく包み込むようなかがくいひろしの作品は、今も多くの読者に愛され続けている。