当時の絵を見ると、喉が渇く!?
——これまで絵本をつくってきて、過去の作品に手を加える、という作業ははじめてだったと思いますが、いかがでしたか?
のりたけ おもしろかったですね。今見ると、当時の絵はかなり時間をかけて描いているのがわかります。
あと、アクリル絵の具の性質を知らなすぎたので、見ていて喉が渇くような、からっからの絵ですよね。笑。
今は、その頃使っていなかった武器も導入しています。
●保湿パレット:絵の具がすぐに乾かないように、下にぬれたスポンジをしいたもの
●リターダー:水のかわりにこれで絵の具を溶くことで、乾きを遅くするもの。グラデーションをつくるときに便利。
古い絵は、きれいなグラデーションを出すために、筆のタッチが細かくなっています。
少し描いて、色を混ぜて、またちょっと描いて、混ぜて…のくりかえしなので、手間と時間が相当かかります。リターダーを使うと、中間色は筆でスッとなでるだけなので、「昔の俺、がんばってたなー!」って思います。笑。
——復刊した『ケチャップマン』は、昔と今ののりたけさんが同居している作品ですね。
のりたけ 古い絵に紙を貼り足して描いたページもあります。
新旧の絵でいちばんわかりやすいのは、顔の描きかたですね。描き足したところは左右のページで顔が微妙にちがっていたりします。
——絵の具の発色や鮮やかさも、違うように見えます。
のりたけ 当時は、絵の具をすごく混ぜて描いていました。
発色がよい、パキパキっとした絵よりは、暗くて宗教画のような絵が好きだったので。
人の肌を描くのに、今は「ジョンブリアン」という色の絵の具を基本に、陰影をつけるために茶色やオレンジを混ぜて使っています。
当時はいちから、白・赤・オレンジ・ピンク…などを使って、フィルムケースのなかに「オリジナルの肌色」をつくっていました。
絵の具って、混ぜると発色が悪くなっていくので、(新旧の差は)特に肌色で出ているかな。
——絵を描きはじめたころ、画材は一式そろえたのですか?
のりたけ 絵の具は基本色だけを買いました。
印刷は、基本CMYK(青・赤・黄・黒)なので(※)、緑をつくりたかったら、黄色と青を混ぜる、というように、最低限その4色さえあれば、すべての色をつくれると思っていました。
だけど、そうやって描いていくと、彩度(色のあざやかさ)が落ちるというのがちょっとずつわかってきたので、いろんな色の絵の具を買い足していきましたね。なので、当時の絵はものすごく彩度が低いんです。
※印刷のCMYKについて、ブロンズ新社のデザイナーがわかりやすく解説しているページはコチラ → CLICK!!
——『しごとば①』のくすんだような色合いは、のりたけさんの色の特徴だと思っていました。
のりたけ あの頃もまだ色を混ぜて描いていたんだと思います。
今年の6月に『たべもんどう』と『ほんとはスイカ』(昼田弥子・文、高畠那生・絵)の合同原画展がありました。
高畠さんの原画を見たときに、絵の具の発色そのままで描かれているので、ものすごくきれいだな、と思いました。高畠さんに「発色すごいですね」と言ったら、「絵の具、混ぜてないですからね!」と端的に言っていて、僕の絵は、重厚感はあるけれど、ぱっと見の発色は全然ちがいますよね。
原画をならべて比べられる、いい機会でした。
だんだん絵本作家になっていく
——仕事をしている、働く大人にとって、心にささる絵本『ケチャップマン』ですが、子どもたちからはどんな反応がありましたか?
のりたけ 最初の本が出たときに友人の子どもたちに見せたのですが、1ページ目を暗唱してくれる子がいたり、結構おもしろがってくれました。
ふりがなもふっていない、難しいことばなのに、ちゃんとおもしろがってくれたので、意外といけるな、って。
「もしかしたら僕、このまま絵本作家になっちゃうんじゃない?」ってちょっと思いましたね。
——本当に、絵本作家になりましたね!
のりたけ そうねー! びっくりですよ。笑。
——出版後すぐに、次の絵本のオファーがあったのですか?
のりたけ 3人の編集者さんから連絡がありました。
今思えば、この1冊の本が絵本作家の道を切り開いていきましたね。
その編集者さんというのは、ブロンズ新社と、『ぼくのおふろ』や『す〜べりだい』のPHP研究所さん。
連絡をくれた3人中2人と今でもいっしょにお仕事をしています。
いい人に出会えるかどうかはとても重要なので、僕はすごく恵まれていたと思いますね。
——「絵本作家になれるかも?」と思ったり、編集者からのオファーもあったりで、少しずつ作家としてのキャリアをスタートしていったのですね。
のりたけ その頃、(デザイン)会社に「打合せしてきまーす」って言って、近くの喫茶店で絵本の企画の打合せをしたりしていましたが、その時は、絵本作家気取りでしたね。笑。
会社に戻ってデザインの仕事をするんですけど、そっちはもう、バイト感覚でした。今思えば申し訳ないくらいですけど。
——編集者からオファーがあったことで、これで自分の名前で仕事ができる!と思いましたか?
のりたけ でも、そうは言っても、本当に絵本が出るのかどうか、半信半疑でもありました。
デザインの仕事とちがって、絵本は誰かから発注されるわけではなく、自分から生み出すので、絵本づくりが仕事として成り立っているという実感がまだありませんでした。
その後『しごとば』が出て、ある程度売れた実績が出たあとに、自分の出版活動が、世の中の経済の一環として成り立っているとわかって、「よし、これでいける!」とようやく思いました。
それまでは「いけたらいいんだけどね〜」くらいで、そんなに甘くはないと思っていました。
本当に絵本の仕事が成り立つのか、悩みながらだったので、軽い気もちで転身!とはいかなかったですね。

きょうも おそくに かえりつき ひとり ながめる まちあかり(本文より)
——チャンスを引き寄せて、切り開いていったという感じでしたか?
のりたけ 「切り開く」っていうと、次!次!とすすんでいくようなイメージだけど、そうではないですね。片足は軸として、今いる場所にベースをおきながら、もう片方の足でさぐってさぐって…という感じです。
そうやってさぐりながら、ちょっとずつ自分の時間や寝る間を削って、新しいほうへ向かっていくんです。
次へいけそうだったら、「んーー、よいしょ!」と移動して、また、片方の足でちょっとずつ次はどこだ、とさがすようなやり方ですね。
華麗に転身しているように見えるかもしれないけど、(片足でさぐっている)両方にまたがった、どっちつかずの状態は、すごく苦しいんです。
重心もばらけているので、体勢を維持するのも、精神的にも苦しい。
「どっちをやってるの?」と自問自答もするし。
でも、この苦しみっていうのは、しょうがない。肯定していくしかないんですよね。
——『ケチャップマン』に通じる考え方ですね。
のりたけ 天職って、ぽっと与えられるわけじゃなくて、いけるかも、やっぱりだめかも…の中途半端な姿勢のくりかえしでちょっとずつ気づいていくものかな。
その状態ってすごく苦しいから、みんなやりたくないし、やらない。
だけど、そこを意識してやらなきゃいけないな、って思っています。
——のりたけさんの、苦しい状態を支えているものってなんですか?
のりたけ ひとつは、あきらめじゃないけど、「そういうものかな」っていう思い。
もうひとつは、「成功したらたのしいぞー!バラ色だぞー!」と自分を奮い立たせること。
ふたつは相反することではあるけど、ちゃんと身銭を稼ぎながらじゃないと、新しいことに挑戦できないな、と思っているので。
今、活躍している小説家とかアーティストも、別の仕事をしながらって人も結構いますもんね。
——絵本『ケチャップマン』は、読んだ人がそれぞれの思いで自己投影できる作品だと思います。
のりたけ そうですねー。本が出たあとに、原画展をやったんだけど、最後の絵をサラリーマンの男の人たちが、じーーっと見てて、「わかるわ〜、これ俺だわ〜〜」という感じなんですよね。それはおもしろかったですよ。

つかれて かえる ゆうぐれの みち あたまの キャップを なでる かぜが ふいに ぼーっという おとを たてると ケチャップマンは ひさしぶりに わらった (本文より)
——ある知り合いにこの絵本を見せたとき、ちょうど人事異動があったばかりで、「私、今まさに“ケチャップマン状態”なんです」って言っていました。読んだ人が、何かを考えるきっかけになる本なんですね。
のりたけ “ケチャップマン状態”って流行らせたいですね!笑。
でもまさに、そう感じてもらえたら。そう思わせようとして作為的に描いたわけではないし、最初から絵本のユーザーを意識して、共感させたいと思ったら、こういう画風や内容にはなっていなかっただろうから、自然にそう読み解いてもらえるのはうれしいですね。
この作品を描いたときの僕の気もちが、絵本を通してみんなにわかっちゃうのね!という感じですね。笑。
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鈴木のりたけさんのインタビュー、いかがでしたでしょうか。
以前にのりたけさんが受けたインタビューのなかで印象に残っていることばがあります。
それは、「楽しむための努力」。ご自身が大切にしている考え方だそうです。
絵本を描くこと、そのための取材に、とことん集中する、苦しみのまっただ中でさえ努力を惜しまない姿勢が、のりたけさんの最大の魅力なんだと思います。





