
ピカソ、モネ、ロダン、プルースト、ヴェルディ......
主に19~20世紀に活躍した画家、彫刻家、作家、音楽家たち。
彼らが生まれた国や国籍、とりまく環境が
味覚や嗜好をつくり上げ、その結果、彼らは芸術と同じくらい
食べることにも、独自のセンスとこだわりを持っていた。
なかでも西洋人の彼らにとって、食後やお茶の時間のスイーツには
料理とはまた異なる、特別な思いがあったにちがいない。
あの芸術家はどんなスイーツの前で、極上の笑みを浮かべたのだろうか。


父は法務省の高級官僚、母は在ストックホルムのフランス外交官の娘、という裕福な大ブルジョワの家庭に生を受けたマネ。マネ家は、法律家を多く出した家柄であり、マネの父は息子に、同じ法律家の道を歩むことを望んだ。だが、彼には全くといっていいほど学問の才能がなかったようだ。妥協策として選んだ海軍兵学校の試験に、マネは2度も落ち、両親はとうとう匙を投げた。そうして、息子が進みたいと願った画家への道をしぶしぶ許したのだった。
19世紀の当時、画家という職業は経済的には不安定だったろうが、マネの家柄なら、たとえ絵が売れなくても、十分暮らしていけるだけの財産はあったに違いない。実際マネは、モネやルノワールなど彼のまわりに集まる若い貧乏画家たちに、経済的な援助をしていたといわれている。
画家となったマネは、印象派の誰よりも先に、伝統と格式を重んじる画壇にスキャンダルを巻き起こした。19世紀初頭の画壇は、ルイ14世時代に組織された王立絵画彫刻アカデミーが、いまだに美術学校とサロン〈官展〉を牛耳り、非常に保守的であった。新しい絵画を模索しようとしていた新鋭の画家たちは、これらと真っ向からぶつかった。
1863年、マネはサロンに『草上の昼食』を出品した。服を着た男性2人の中央に、裸体の女性が座って、草の上でピクニックをしているその絵が、物議をかもした。当時、ヴィーナスなど神話を描いた絵画の中では女性の裸体は容認されていたが、一般の女性の裸体はタブーとされていたからだ。
そんなマネの画家としての才能を認めたのは、ドラクロワ、ボードレールやエミール・ゾラといった文化人たちだ。これら文化人、そしてもともと交流があった上流階級の人々は、彼の才能と優雅で陽気な人柄に惹かれ、マネ家には人の出入りが途絶えなかったという。
当時、上流階級やブルジョワジーと呼ばれる階級の間では、自宅で夕食会を催すことが通例であった。もちろんマネ家も例外ではなく、毎週火曜と木曜に友人を招いて夕食会を開いていたとか。しばしば当時の流行りの料理も供していたので、マネ家の食卓はとても評判がよかったらしい。
夕食会同様、お茶会も有閑ブルジョワジーのたしなみであった。当時のスタイルとしては、幼児の頭くらいある大きなブリオッシュに、バラの花を刺して、テーブルの中央に置く。ブリオッシュを囲むように、さらにサブレやマドレーヌのような小さな茶菓子をびっしりと並べた。これらのスイーツをプレーンティーやハーブティーなど、さまざまな種類のお茶と一緒に楽しんだようだ。
ブリオッシュは、食事のときに食べるバゲットとは違い、水のかわりに牛乳を加え、バターと卵をたっぷり練り込んだパンだ。材料が焼き菓子に近いので、フランスではスイーツとして見なされることがある。
かのマリー・アントワネットが、空腹に耐えかねて城に集まってきた民衆に向かって、「パンがなければブリオッシュを食べればいいじゃない」といって大顰蹙(だいひんしゅく)をかった話はあまりにも有名だろう。割るときれいな卵色をしたブリオッシュは、フランス人にとって豊かさの象徴のような食べものなのだ。
マネは、このお茶会の主役であった可憐なブリオッシュを、彼の作品の中で何枚も描いている。スイーツをモチーフにした静物画をあまり見たことがないので、私はこの絵がとても好きだ。黒っぽい背景と黄金色のブリオッシュという鮮やかなコントラストも、黒が美しいとされるマネらしい作風だと思う。
実は、マネの100年前ほどに、ジャン=シメオン・シャルダンという画家が、純白のオレンジの花を刺したブリオッシュのある静物画を描いている。その絵は、ルーヴル美術館に所蔵されているから、若き日のマネがこの絵を見た可能性は高い。
バラを飾ったブリオッシュは、お茶会のテーブルを華やかにするだけではなく、切り分けて、果物のコンポートやジャムを添えていただいたという。花を刺しテーブルの真ん中にしつらえられたブリオッシュが、人々から愛され、常に人々の中心にいたマネの存在と重なって見える。
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材料 (大1個分)
牛乳(30~40℃)...50cc
インスタントドライイースト...大さじ1(10g)
砂糖...50g
強力粉...250g
卵(Lサイズ)...2個
塩...小さじ1
無塩バター(常温にもどす)...100g
卵黄...1/3個分
バラの花...1本
つくり方
1. 小さな器に牛乳、イースト、砂糖を入れ、イーストの粒々がなくなるまでよくといておく。
2. ボウルに強力粉と1を入れ、ゴムべらで混ぜ合わせる。
3. 卵を割り入れ、もみ込むようにしてなめらかになるまで手でこねる。
4. ひとつにまとまったら、台の上にのせて広げ、塩を全体に散らす。ボウルはそのままとっておく。
5. 塩を包み込むようにして、約5分こねる。
6. やわらかくなったバターを5で包み込むようにして、約20分こねる。最後は丸くまとめる。
7. 4のボウルに6を入れてラップをし、
オーブンの発酵機能(30~40℃)で約1時間、一次発酵させる。
8. 一次発酵後、生地を手で軽くつぶしてガスを抜く。
9. 生地80gだけを別にし、丸める。残りの生地も同様に丸める。
一緒にぬれ布巾をかけて約10分常温でおく。
10. バター(分量外/有塩でもよい)を塗ったブリオッシュ型に、大きい生地を入れ、その上の
真ん中に80gの生地をのせ、オーブンの発酵機能(30~40℃)で約30分、二次発酵させる。
11. 卵黄を少量の水(分量外)でといておく。
12. 二次発酵後、ふくらんだ生地の上部をナイフで整え、11を刷毛で塗る。
13. 180〜200℃に温めたオーブンで約30分焼く。
表面が焦げそうなときはアルミホイルをかぶせて焼く。
14. 完全に冷めたブリオッシュに、バラの花を刺す。
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